ガウチョ開店1周年

 エッセーなんてタイトルにしてみたけど、実のところ、1周年を迎えたガウチョの歴史みたいなものを書き留めておくことにする。たかだか1年の浅い歴史ではあるが、私たちにとっては濃密な1年だったように思う。ここらで内省的な意味も含めて、この1年を振り返ってみる必要があるかも知れない。

ハイリスク・ハイリターンがガウチョの生きる道

 ガウチョでの1年は早かった。当初、企画段階で、アウトドア料理を基軸として、スローフードやオーガニックといった時代の潮流を取り込んだレストランが大塚という地域に受け入れられるかどうか、これはある意味で賭けだった。だから、なるべくリスクを少なくするために身軽な経営を念頭に置いた。借り入れはせず、自己資本のみでやらねばならない。店を手作りにしたのも、そうした事情があったからである。当然、人件費を抑えるためにオープニング・スタッフも最低限にしなければならない。

やれば出来る、これがガウチョの真骨頂

 店の工事はすべて素人の手作りだから試行錯誤。失敗とやり直しの連続だった。毎晩、遅くまでの作業、そして寝る前に布団の中で料理のメニュー構成や慣れないお酒の勉強などに没頭した。ご近所さんからは「いつになったらオープンするの?来年までには出来るだろ?」などと野次が飛び、苦笑される始末。そして、まだまだ未完成のところもあったが、3ヶ月半を要して、なんとか開店にこぎ着けた。

宣伝なしで開店、前代未聞のガウチョのスタート

 開店は万全を期したいところだったが、前述したように、スタッフも少なく、また不慣れであったため、最初は派手なオープン告知や宣伝はせず、お得意様や知人・友人を招いたプレ・オープンというスタイルにした。そこで実際の料理や酒、接客などについてアドバイスをいただき、グランド・オープンに備えることにした。

恐るべし口コミの威力

 ところが店を開けてみると、プレオープンを知らない一般のお客様が、どんどん来店される。嬉しかった。お断りするのがもったいない気もする。そんな訳で、前倒し的に、いつのまにか営業が始まってしまった。一度も宣伝はしてないのだが、お客様の口コミで広がり、ジワジワっという感じで店は賑わっていった。

お客様とのコミュニケーションの大切さ

 最初のころは、ダッヂオーブンという料理をお客様に説明するのが私たちの楽しみでもあり、また仕事だった。料理も作らねばならない。大忙しの毎日だ。驚いたことに、ダッヂオーブンの知名度は予想を遥かに超えて少なかった。しかし、ありふれた普通のレストランの開店とは違い、物珍しさもあって、トピックにも事欠かず、お客様との会話もスムーズに運べた。

なぜダッヂオーブンだったのか?

 なぜダッヂオーブン料理店なのか?よく皆さんに訊かれる質問だ。これには私たちなりの目算があった。ひとつに競合店がない。リスクは大きいが、成功すれば、このジャンルのパイオニアである。第2に、競合店がないと云うことは、値段や味において比較対象されることがない。ガウチョの味が、そのままダッヂオーブンの味であり、オリジナルな料理となる。これも後進レストランとしては強みである。3つ目は、ダッヂオーブン料理は、マニアルさえあれば素人でも簡単に作れる。何十年もキャリアを積んだシェフや板前さんを高額で雇い入れる必要はなく、アルバイト学生でもすぐにマスターできる。やってみるだけの価値はあると思った。

がんばれ! 街の小さなレストラン

 飲食業にとっては、相変わらず厳しい状況が続いている。大塚にも、どんどん大型チェーン店が進出して、小さなところはどこも苦しい。そんな中で新しく店を始めるには、しっかりした戦略も必要だろう。価格競争では、とても太刀打ちできないのだ。失礼な言い方ではあるが、脱サラでラーメン屋をやろうと云うくらいの安易な発想では、うまくいかないと思う。

これがないと仕事は無意味だ

 つまるところ事業は「人、金、モノ」である。優れた人材、資金力、そして良い商品さえ揃っていれば申し分ない。しかし、それらすべてが不足している私たちが生き残るためには、独創性と創意工夫が必要だろう。そして最後は、一人ひとりのお客様を大切にした「おもてなし」の心、行き届いたサービスなんだと思う。

おいしい料理に欠かせないもの

 通常、私たちの日常生活で食事のテーブルに座るとき、誰かが椅子を引いてくれるなんてことはない。脱いだコートを丁寧にかけてくれる。食べた食器を手際よく片付けてくれる。こうしたことのすべては、おいしい料理と同じように重要なことだと感じる。ガウチョは、ただ空腹を満たすためにあるのではなく、こうした非日常的な空間を演出するところなのだと思っている。

絶妙なコントラストの妙

 ガウチョのユニークなところは、そればかりじゃない。前述したような礼儀正しさやフォーマルというのは、一流ホテルやレストランでも見られるものだ。ガウチョには、そこに「ぬくもり」とか「気軽さ」、つまりアットホームな雰囲気がどうしても必要である。なぜなら、ワイルドを売りにするアウトドア料理だからだ。

都会で楽しむキャンプ料理

 都会に暮らしていると、野外で食事するなんて機会は滅多にない。だから、ときには気分を変えて、ガウチョでキャンプ料理を楽しむのもいいもんだ。何気ない夕食も、いつもとは違ってちょっと新鮮、美味しいと感じたりもする。そんな気がするもんだ。

 アウトドア・クッキングの醍醐味って云えば、おいしい空気と素晴らしい景色、そして愉快な仲間とのおしゃべり、それらがある、それで充分! 料理がうまい! 酒もうまい! そんな楽しさを都会で気軽に味わえればいい。これがガウチョのコンセプトなのだ。

 焚き火や囲炉裏には不思議な要素があって、人は火を囲むようにして集まってくる。知らない人同士も仲良くなれる。またパチパチ燃える炎を見つめていると、心の奥にしまいこんでいた原始的な意識、まどろみにも似た変性意識に陥る。そんなキャンプ・ファイヤーの面白さを、都会で味わってみたいと考えている。

手間を惜しまず丹念に作った料理

 コンセプトなんて気取らずに云えば、単に「こだわり」である。いまどきはポリシーって云うのかも知れない。まぁ、いずれにせよ、料理はすべて手作りにこだわっている。いま流行のスローフードってやつだ。ハムひとつにしても、出来上がるまでには何工程もあって、完成までは10日もかかる。時間をかけて丹念に作っていく。だけど食べる時は一口。うーん、まことに呆気ないものだ。もうちょっと味わってくれてもいいじゃないか、、、と拳を握ることしばしば。

お店はすべて手作りのDIY精神

 手間暇かけて作るこだわりは、それだけじゃない。お店もすべて手作り。デザインも「都会的な洗練」と「野趣」という相反性のバランスをテーマにした。私たち夫婦とスタッフの萩野君の3人でコツコツと3ヶ月半かかって作り上げた。一緒に汗を流し協力して作る。この「過程」は捨てがたい。何ものにも代え難い「経験」かも知れない。結果や仕上がりは、それほど重要なことではなく、そうしたプロセスを共に楽しむ、そんな心のゆとりがいいのだ。いまでも実感としてそう感じている。

完成したのは温かい声援があったから

 店作りに励んでいると、親切というかお節介な人がやってきて、いろいろアドバイスをくれる。遊びや趣味、道楽じゃ商売はできないという厳しい指摘もいただいた。それでも素人ながら一生懸命に毎日、汗を流していると「頑張って!」とか「完成したら一番に行くよ」という皆さんからの温かい声援が増えていった。

 本心、これは嬉しかった。いずれにせよ良くも悪くも話題性はあったんだと思う。ご近所さん、通勤してる人たちが足を止めて挨拶をしてくれるようになった。だからビラを配布するまでもなく、オープンと同時に、満を持して皆さんが来店してくださった。料理もさることながら、皆さんの話題の中心は、セルフ・ビルトであったことは云うまでもない。

都内に一軒しかないレストラン

 もちろん肝心の料理も好評だった。中でも「ガウチョ・ポット」と銘打った当店の看板メニューは開店当初から人気を博した。これは9種類の野菜とポーク(脂抜きした三枚肉)のローストで、塩・コショウを少々入れるだけ。あとは何もしない。そのまま炭火で50分。野菜本来の旨味をギューっと引き出した自慢のメニューである。小細工なしの豪快な調理法だ。わかる人にはわかる本物の味、、、ってのが受けた。勢いに乗って、いまはスモーク料理にも力を入れている。

目指すはアウトドア料理の老舗

 前述したように、キャンプや野外料理というのは、都会では決して食べることが出来ない。だから、ガウチョは都内で唯一それが食べられるオリジナリティ溢れるレストランと云うことになる。もちろん初めての挑戦だから、それなりの不安もあったが、時とともに皆さんに少しずつ受け入れられ、ガウチョをごひいきにしてくださるお客様も増えた。多謝 !

 他に競合店がないと云うのも強みだったと思う。比較する対象がないのだ。しかし、それだけにガウチョの料理が、そのままダッヂオーブン料理として印象づけられてしまう。だから余計に手を抜くことは出来ないと云う自覚もある。やり甲斐はある! もう少し頑張れば、 多くの人に、ダッヂオーブンと云えば「ガウチョ」と結びつき、それが定着するかも知れない。アウトドア料理の老舗と呼ばれるかも知れない。

 ガウチョでは、いま開拓の精神が新しく始まっているんだと思う。